森川智之プライベート・コレクション

グループ満天の星第5回公演「SHE'S HAVING A BABY」

レヴュー


今回の公演、5回とも行った鈴は、 それぞれの回ごとにいろいろな友だちを誘って行きました。 そのうち、4回目、日曜の昼の公演に一緒に行った友だちのレビューです。
この人は映画が大好きな人で、月平均で10本以上、映画館に足を運んでいます。 休日はほとんど映画館に入り浸りの模様。 ちなみに、鈴の職場の人で、30代の男性です。
ここに出て来る「友人」というのは、すべて鈴のことです。(爆)


普段映画ばかり観ていて舞台を観るのは久し振りだ。 舞台をどうしても敬遠してしまうのは、 役者が目の前で演じているという生々しさが苦手だからだ。 ひとたび役者がセリフをとちったり不自然に間があいたりしたものなら 観ている自分が緊張してしまい、ストーリーに集中できなくなる。 映画だとそういった心配はないので安心して最前列で観る事ができる。
正直言って今回も嫌な予感を持ちつつも、 森川智之大ファンの友人にそそのかされて(でも決して嫌々ではなく)観に行った。 当然ながら最前列ではない。

結論から言ってしまえば今回の公演は最後まで緊張する事なく楽しめた。 それはおそらく分かりやすいストーリーとストレートな演出のせいだと思う。 何より「とら猫のビンゴ」だとか野口五郎の「君が美しすぎて」といった 70年代の風俗が出てきたために、妙に感傷的になってしまったからだ。
あの会場で「とら猫」が「黒猫のタンゴ」だと知ってる観客が何人いただろう。 「僕の心を乱さないで 間違いが起こりそうさ」と歌う野口五郎をお茶の間のテレビで家族みんなで見ていた事を 会場の若い子たちに想像できるだろうか。
そんな70年代の気分に浸りつつ、 作者に本当に共感できるのは自分達だけだという変な優越感を持ちつつ、 次第に劇に熱中していった。最初の嫌な予感は杞憂に終ったわけだ。

ストーリーはありふれていると言えばありふれていて至極シンプルだ。 欺瞞的な大人の世界を幼い頃に知って拒否した少年もやがて大人にならざるを得ない。 家族を持ち生活を守るために、 本当の思いを呑み込んで卓也は一度は拒否した大人の世界に入っていく。 しかし頑張れば頑張る程、守ろうとした幸せは遠のいていくように思える。 卓也も涼子も互いを思いやるが故に会話が少なくなる。 「赤ちょうちん」「神田川」の映画でおなじみのストーリーで、 いまどきの劇にしては感傷的にすぎる気もする。
卓也が涼子との生活を守ろうと何かを犠牲にするシーンでは、 あきらめの笑顔の後に表情がこわ張る。 これはあの「卒業」のラストシーンで花嫁を奪って逃げる ダスティン・ホフマンを思い出させた。 非常にナイーブでかつシニカルな内面を演出する事で センチメンタルな劇に歯止めがかかっている。

さてラストで出産を乗り越えた事で二人は本当に幸せをつかんだのだろうか。 子供が生まれた事ですべてが解決すると考えるのはあまりに安易だ。 しかしかたくなに歌う事を拒み続けた卓也が、 生まれた子供のために子守歌を唄う気になった時、彼の心の中で何かが変った筈だ。 それは拒否するものが彼の外にあるのではなく自分の心の中にしかない事に 気づいたからかもしれない。そしてそれは自分にしか変えられない何かなのだと。 大人になるという意味は本当はそこにしかないのだ。

最後に気がついた事を挙げておく。
山の手アパートを取り巻く人間模様は、 新興宗教ありワイドショーずれした女性ありで非常に今風で面白かったが、 大屋さんのフケ役はちょっと見ていてつらかった。 どうしても演じている人との年齢にギャップを感じてしまう。 こういうところが最初に言った生々しい部分で、途端に熱中できなくなる。
神田役の人の演技は素晴らしかった。 会社をやめて流しをやるあの訳の分からないキャラクターを見事に演じていた。 ああいうキャラクターは好きだ。
ラストで卓也が涼子に寄り添うシーンで暗転となり、 暗転明けで突然終りになるのがちょっと気になった。 終ったのかどうかしばらく分からずに間が開いたので気分が今一つすっきりしない。 せめて暗転明けに構図を変える工夫が欲しかった。

蛇足だが一緒に来た友人から毎日のように森川智之の写真は見せられていたので、 ミッキー渋谷が出てきた時に「随分印象が違うなぁ。写真うつりがいいんだな、 森川って」と思って見ていた。品川剛が出てくるまで自分の間違いに気づかなかった。 ごめんなさい(どちらに? もちろんお二人に)。だって髪形が似ていたんだもん。
さらに蛇足だが、近頃カラオケにいって友人が「君が美しすぎて」を歌った。 若い女の子が例の「間違いが起りそうさ」の歌詞を聴いて「何故、 間違いが起きちゃ駄目なの?」と不思議がっていた。 やはり過去を振り返る事は感傷にすぎない。


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