森川智之プライベート・コレクション

グループ満天の星第5回公演「SHE'S HAVING A BABY」

ストーリー


舞台は奥中央に一段高い段があるのみ。

少年・卓也 BGM:とら猫のビンゴ
山の手アパート前
漫画を読んで笑っている少年。彼を見る卓也。昔の自分を思い出している。 「引っ越しの挨拶に行こう」という涼子の声に答えて、去る。

大久保・高田
山の手アパート前
「越して来たばかり」の若い夫婦、卓也と涼子のうわさ話をするふたり。 高田は派手でほら吹きでゴシップ好き、大久保は宗教に凝っている。
大家登場。「203号室に越して来た大塚さんご夫婦」をよろしく、とふたりに頼む。 大久保に「宗教の勧誘はほどほどに、 前の人たちはそれで出て行ったのだから」と諭すと、高田が「それは違う」と否定。
前の住人は、奥さんがテレクラにはまったことが原因で夫婦仲がうまく行かなくなり、 それで出ていった、ということを大げさに説明する高田。 高田の「出て行った奥さん」の物まねで、 「ワタシ、アムロにちょー似てるって言われるの」を聞いて、
大家「アムロって?」
大久保「ガンダムのことですよ、大家さん」
テレクラの話をする高田を見ながら、
大家「テレクラって?」
大久保「ほら、秘密の…」
大家「秘密組織?」
高田「いかがわしい場所のこと」
高田、テレクラの詳しい説明をしてから、「よく知らないけど」。 大久保、「よく知ってるじゃない」とつっこむ。
大家退場。
大久保「やっぱり誘えばよかったわ、集会。 そうすればテレクラなんかにはまることもなかったのに」
高田「どっちにしてもはまってたのは同じだけどね」
卓也と涼子、買い物袋を下げて登場。ふたりに挨拶。 高田、買って来たものを言い当てる。びっくりする卓也と涼子。
大久保は「何か困ったことがあったら相談して」と涼子の手を取って祈り始める。 助けるために、「どれくらいこちらにいらっしゃるんですか」と話しかける卓也。 高田は相変わらずのほら吹き。 「語学堪能」の話では、地方都市や古代文明の名前まで飛び出す。
唐突に食事の支度があるから、と去る大久保と高田。 高田家の夕食はビーフストロガノフと北京ダックらしい。

[奥]卓也・涼子
山の手アパート203号室
部屋に戻り、くつろぐふたり。 卓也は引っ越してすぐに就職のための面接に行き、戻って来てすぐ買い物だったらしい。 面接の首尾を訊ねる涼子に、ぶすっとして何も答えない卓也。
卓也は子供の頃歌手で、引退してから絶対に歌は歌わないと決めているらしい。 涼子が「聴かせて」と頼んでも「いつか、な」と拒否。
結婚して「大人になったんだから」と自らを言い聞かせるふたり。 子供の頃を思い出しているうち、電話が鳴る。 「女房の父親に頼ってその会社に雇ってもらっては、 一人前の大人になったとは言えないから、 その話だったら断われ」と涼子に指示する卓也。
電話は涼子の幼なじみ、卓也の大学の同級生だった品川剛から。 品川に恨みがあるのか、怒って涼子から受話器を奪い取り、切ってしまう卓也。
再度面接の話になり、気まずい雰囲気の流れるふたり。 テレビをつけると、「君が美しすぎて」が流れる。 それを聴きながら、「実は面接がうまく行って、明日から出勤する」と告げる卓也。 涼子を驚かすためにわざとうまく行かなかったふりをしていたらしい。 喜んでお祝いの支度をするために涼子退場。
ひとりで面接の様子を思い出す卓也。

卓也・神田
ミュージック恵比寿のオフィス
卓也は子供の頃、歌手として「とら猫のビンゴ」というヒット曲を出したが、 「お友だちと遊ぶ時間がない」という理由であっさりと引退。 神田はそのときのレコード会社の担当だった。
その神田を頼って、「音楽関係の仕事がしたい」と就職を頼みに行く。 「お前はピュアだから、つとまるかどうか不安だ」という神田。 しかしとりあえず、採用はしてもらえる。 「世の中は金と権力。それがわかっていないとつとまらない」と、 強い調子で釘を刺す神田。

[奥]卓也
山の手アパート203号室。
ひとりで考え事をする卓也のところに、 シャンパンの栓を口で抜こうとしながら涼子登場。 そんな涼子を抱きしめ、「俺、がんばるから」と言う卓也。

2年経過。

高田(お腹が大きい)・大久保
山の手アパート前
高田は妊娠7か月。口ではいろいろ言いながらも、幸せそうな表情。 「赤ちゃんが欲しくてもできない夫婦がいる」と、卓也と涼子のうわさ話。
「とら猫のビンゴ」を歌っているところに、涼子登場。 「産婦人科はどうだったの」と訊ねる高田に、「どうして知っているのか」と驚く涼子。 「子供ができないのはセクシーさが足りない」などといろいろ言う高田に、 「プライバシーの侵害だから、うちのことを言いふらさないで」と、 きっぱりと言って去る涼子。
大久保「あの奥さんも言うようになったわね」
高田「おとなしい人だと思っていたのにね」
大久保「ずうずうしくなった、っていうことね」
高田「ああはなりたくないわね」
大久保「ずうずうしいのはおばさんの始まりって言うからね」

卓也 BGM:問答無用
駅前のレコード店前
ミッキー渋谷、地獄からの帰還、「問答無用」ののぼり。
「買ってください」と必至にキャンペーンする卓也。成績は芳しくない。

うまく行かないのであきらめて、のぼりなどを片づけにかかったところに、 白いロングコート、赤いマフラー、サングラスのミッキー渋谷登場。
「いったいどうしたんですか、 熱出したっていうからひとりでがんばっていたのに」と言う卓也を制し、 まわりを見回すミッキー。 「終わってるな、誰ひとり俺だと気がつかない」とがっかりし、 「どうして俺がこんなところでお前とふたりでキャンペーンしないといけないんだ」 と卓也にかみつく。
卓也、怒りを押し殺し、「がんばってCD売りましょう」と準備するが、 「売れなくなって営業をやるのは嫌だな」と嫌味を言うばかりのミッキー。 結局また逃げてしまう。
残された卓也のところに、神田から電話。5枚売れた、と言うと神田に叱りつけられる。 続いて涼子からの電話に、「そんなくだらないことで電話して来るな」とどなる卓也。
電話の最中にミュージック恵比寿の後輩、目黒が登場。 電話をしまったことを確認して、卓也に抱きついて来る目黒。首尾を聞いて、 「やっぱりね」と言いながら、ミッキーにこんな営業をさせているのは、 ドラッグの罰だとこぼす。卓也、客に聞かれないかと驚いて目黒をたしなめる。
さらに、自分は卓也のストーカーだと言う目黒。 卓也が産婦人科に行っていることも目撃したらしい。
帰り支度をする卓也に、「ミッキー自身が作ったデモテープがある」と言う目黒。 卓也、興味を示すが、自分の部屋にある、聴きに行こう、と誘う目黒。 しぶしぶ承諾する卓也。

[奥]涼子
山の手アパート203号室
「絶好の排卵日和なのに」と、卓也の帰りを待ちわびている涼子。
玄関のベルが鳴り、品川剛登場。ロンドン留学から戻ったらしい。 ピンク色のシャツにオフホワイトのパンツ、紺のカーディガン。
部屋を見回し、涼子とふたりの暮らしをなじる。 卓也を「あいつはガキだ」と言い放ち、「幸せだ」と主張する涼子に、 「俺よりあいつを選ぶからだ」と、強い言葉を向ける。 「やつれた」「あせっている顔をしている」「結婚が早すぎた」 「俺と一緒に逃げよう」などと言うが、「今が幸せ、卓也と一緒にいたい、 彼の赤ちゃんが欲しい」ときっぱりと言う涼子に、あきらめる。
音楽会社を興す、と剛。 「俺には財力がある。宝石だらけのウエディングドレス、着させてあげられるよ」 「ミュージシャンになりたいなら、チャンスをあげられる」と芝居がかって言う剛に、 「宝石だらけのウエディングドレスなんて悪趣味」と言う涼子。
どうにか思い切って、剛退場。

さらに2年後。

卓也
ミュージック恵比寿オフィス
卓也が仕事をしていると、神田登場。話によれば、目黒は半年前に辞めて、 音沙汰がないらしい。ミッキーは卓也と目黒が面倒を見てドラッグから足を洗い、 プロデューサとして成功している。
神田は卓也に、ミュージック恵比寿は、大会社パンゲアレコードに吸収合併された、 と告げる。パンゲアレコードは、品川剛の経営する会社。 「神田さんはこれからどうするんですか」という問いに、 「重役にならないかと誘われたが、もう金を見るのが嫌になった」と答える神田。 「金の亡者かと思っていました」と卓也に言われ、 「大人になっても、ガキの頃に得たものをなくしちゃいけないんだ」と、 にわか詩人になる神田。
「お前は何をやりたいんだ」と神田に問われ、卓也が言葉に詰まったところに、 品川剛登場。高そうなスーツにブランドのマフラー、クロコダイルの靴。 「悪いが、私たちふたりだけにしてくれ」と神田を追い出す。
品川に反発する卓也。そんな卓也に「2年前に涼子に会った、 さらって行こうと思ったんだが。もうちょっとで成功するところだった」と言う品川。 「聞いてない」とうろたえる卓也に、「嘘だ」と一喝。
「お前はガキだ」「人が思い焦がれて手も出せない女を横取りしたんだ、 嫌味のひとつくらい我慢しろ」と、さらに卓也に言う品川。
品川「重役にしてくれと取り入ることもしないのか」
卓也「女房に横恋慕しているやつが上司の会社で働けるか」
品川「会社辞めるなよ」
卓也「辞めてやる」
品川「涼子を悲しませるのか」
卓也「涼子は俺の女房だ。どうしようが俺の勝手だ」
品川「お前のその顔。全然変わっていない。 しかし涼子は、そんなお前を好きなんだ。お前の子供が産みたいと言うんだ」
品川「ガキが好きなんだ、女は。母親だからな」
書類を床に叩き付け、「辞めてやる」と捨てぜりふを吐いて去る卓也。 書類を拾い、奥に腰掛ける品川。 「いつになったらお前を忘れられるんだ、涼子」と泣く。

[奥]涼子・大家・大久保・高田・目黒
山の手アパート203号室
アパートの前で涼子と目黒が言い合い、涼子が目黒を叩いたらしい。 そこを目撃した大久保と高田が大騒ぎ、大家が大塚家に連れて来た。 大騒ぎしながらも、大家・大久保・高田が退場。
目黒、自分はピンクサロン恋泥棒で働くうち、卓也の愛人になった、と言う。 涼子は信じないが、大げさにジェスチャー付きで「そうだ」と主張する目黒。 「奥さん、どうします?」の問いに、「卓也があなたを必要としているなら、 私は別れて次の人を探す」と言う涼子。「じゃ、探してください」と言われ、 「でも好きだからつらい」と涼子が言うのを聞いて、全部嘘だと告白する目黒。 「やっぱりね」と言う涼子。涼子の「お芝居うまいわね」という言葉に、 目黒は「赤羽高校演劇部所属だった」と答える。
涼子「あなた、目黒さんでしょ」
目黒「いやん。どきどき。どこでサイコメトリーされちゃったのかしら」
涼子「彼が言ってたから。面白い後輩がいるって」
そこに卓也帰って来る。目黒を見て驚く。 「指輪を届けに来た」という目黒と涼子の会話に、口をはさむ隙のない卓也。 2年前、ミッキーのデモテープを聴きに目黒の部屋に行ったときに、そのまま泊まり、 指輪を落としたらしい。目黒が説明を始め、愕然とする卓也。 しかし目黒は「テープを聴いたらそのまま眠ってしまった」と言い、 どうにか事無きをえる。
結婚が決まったことを告げる目黒。「だからもう大塚さんのストーカーができません」。 目黒が卓也のストーカーだったのは、卓也の歌を聴きたかったからだ、と告白する。 「奥さんは聴いたことがありますよね」と言う目黒に、「まあね」と答える涼子、 驚く卓也。
目黒が去った後、お互いにお互いの存在を忘れていた、と反省するふたり。 「どうして指輪をはずしたの」という涼子の問いに、しどろもどろの卓也。 急に涼子が「気持ちが悪い」と言い出し、妊娠しているらしいことがわかる。

さらに数か月経過。

ミッキー渋谷
パンゲアレコードオフィス
キーボードに向かい、ヘッドフォンをしながら曲作りをしているミッキー。 赤と黒の派手なシャツにベージュのコーデュロイのパンツでラフな格好。 缶コーヒーを持って卓也登場。ミッキーにコーヒーを渡す。 ヘッドフォンを取り、会話ができるようになるミッキー。
目黒の結婚式での即興演奏の話、卓也は出席できなかったらしい。 かみさんが産み月だから、という言葉から、子供のできた女の話。 「あなたの子供が欲しいの、と言われると、エイリアンを思い出す、 女が巣作りを始めた、食われる、と思う」と言うミッキー。 彼は恋愛派で、自分の女には母にならず、永遠に女でいて欲しいらしい。
「俺も子供だからな」と言うミッキーに、「それでいいんでしょうかね」と言う卓也。 「いいじゃんか、好きなものはいくつになっても好きなんだから」 「大人の遊び(大麻)よりも子供の遊びのほうが健康的」と答えるミッキー。
目黒の結婚式で神田に会った、と言うミッキー。神田は流しをしているらしい。 ギターを持ってはいるが弾けないので、ラジカセを首から下げて歌っている。 歌は下手、とのこと。 「あの人も人の親だけど、ガキの部分があるよね」とミッキー。

高田・大久保・大家・涼子(お腹が大きい)
山の手アパート203号室
高田がほらを吹いていたのは、みんながうらやましかったからで、 自分が幸せだと思ったら、どうでもよくなったと言う。 大久保のこともうらやましかったと言われ、 大きな数珠を出して「これのことね」と納得する大久保。 大家のこともうらやましかったという言葉に、
大家「私のどこが?」
大久保「ああ、ポケモンのピカチュウに似ているところね」
高田「そんなこと思ってもみなかったわ」
大家「ポケモン?」
大久保「モンスターですよ、大家さん」
大家「なんか、むかつくわね(ひきつり笑いしながら)」
「子供のいる女は最高のティアラをつけた女王様」 「女は誰でも女王様になれる」などの話をしていると、涼子の陣痛が始まる。 あわてふためく高田と大久保を大家が叱りつけ、涼子は救急車で病院へ。

卓也・神田
ガード下の屋台
卓也と神田が酒を飲んでいる。会社を辞めたら離婚されたという神田。 しかしやりたかった流しをしていて、充実している、とも。 そんな神田に「逃げている」と言われ、 「俺はあんたのような人生の落伍者じゃない」とぶつける卓也。
「お前に勇気をやる」と、ギターを取り、ラジカセを首から下げて歌い始める神田。 曲は中村雅俊「ふれあい」。歌は下手だが、自分の世界に入り込んでいる。 聴いていた卓也は感動した様子で、「少し勇気が出て来た」と言う。 「ガキの頃に得たものは、無理して捨てなくてもいい、 捨てたら拾いに行けばいい」と言う神田。
飲み直そう、というときに、卓也の電話が鳴る。 涼子の子供が産まれる、という連絡で、そのまま卓也は退場。

高田・大久保・大家
病院
後ろにはカーテンが引かれている。
看護婦が入って来る。つきそいに身内かと思って話しかけるが、 結局近所の住人だということがわかる。看護婦の鶯谷と高田は顔見知りだったらしい。 そうこうしているうちに、卓也が息を切らしながら登場。 出産につきそうことになり、手配するために看護婦退場。
深刻な顔で再び看護婦登場、卓也に話がある、身内以外は席をはずしてくれ、と言い、 大家・大久保・高田は退場。
へその緒が赤ん坊の首にまきついていて、帝王切開することになった、 命にかかわることもあるかもしれないから、と卓也に告げる看護婦、愕然とする卓也。 待つように言って、看護婦退場。
卓也、愕然としたままベンチに座る。 涼子が助からないかもしれないと聞いて、楽しかった思い出が頭を過ぎる。

頭をかかえた卓也のところに、看護婦登場。BGMが大音量でかかっており、 せりふは口の動きだけ、言葉はなし。卓也に優しい笑みで話しかけ、 病室を指し示してから退場。カーテンが開き、舞台中央に立つ卓也を、 後ろからのライトが照らし出す。逆光の中に立つ卓也。
カーテンの奥にはベッド、涼子が寝ている。 静かに涼子に近寄る卓也。どうやら涼子も子供も助かったらしい。 命がけで子供を産んだ涼子を、命がけで守ると約束する卓也。 子供の成長する夢を見た、と話す涼子。卓也は自分の子供に子守歌を歌う、と言う。
涼子が卓也に、「ラブソングを歌って欲しい」と言い、 「歌ってあげる」と卓也が答える。そのまま暗転。

舞台奥のベッドで身体を起こした涼子と、それをやさしく抱いて支える卓也の前で、 カーテンコール。大家、高田、大久保、看護婦、が順に出て来て左側に並ぶ。 右側には、目黒、神田、品川、ミッキー。最後に奥から卓也が出て来てあいさつ。
そのまま暗転。明かりがついたときには舞台は無人。

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